25年前の記憶

私の滞在している宿Balumbaは、レイキーピークのブレイクの丁度正面にあり、近所に数件ある他の宿と比べても取り分けレイキーピークに近い。

レイキーピークにサーフィンに行くときは宿の海側にある門から目の前の浜に降り、そのまま真っ直ぐパドルしポイントに向かう。帰りはその反対で真っ直ぐ浜に向かい門をくぐり宿の敷地内に戻る。

3日前の朝、レイキーピークでサーフィンを終え宿の門をくぐると、その真正面の部屋のベランダにいた欧米人に「どこかで見かけたことあるな? あっクラマスだ。」と声をかけられた。

でもクラマスでサーフィンをしたのは去年1度、その前なんて10年ぐらい前なのでクラマスで見かけたと言うのは間違えだろう?以前にも何度かクラマスで「見たことあるぞ。」と言われたことがある。私の事を見たことは間違えないと思うのだが、ほぼビンギンでしかサーフィンをしないので、そのような質問が来た時は「クラマスじゃなくてビンギンでしょ。」と即座に返答する。

クラマスでサーフィンをやる私同様の年齢のサーファーは、必ずビンギンでサーフィンをした事があるので、ほとんどの場合、その返答に対して「あーっそうかビンギンだったか。」で話がまとまる。

3日前の時も何時もと同じように「クラマスじゃなくてビンギンでしょ。」と答えたら、「俺はミックのボードをシェープしてるんだよ。」と返事が返ってきた。

そのミックという人物は30年近く前から当時はまだ何も開拓されていないビンギンに住むオージーでパイオニア的存在だ。私のようにビンギンに住む外国人は必ず彼の名前は知っている。

それでミックのボードを削る人なんだー。「名前は?」と聞くと「ジェソン」と返ってきた。そして立て続けにもう一度「ジェイソン フラナガン」と自己紹介された。

その名前を聞いてすぐに思いついた「えっジェイソン フラナガン? 」もう6~7年経つが、私が販売しているDHD,PYZELを扱うサーフボード工場で彼の板も作っていた頃に会った事があるのだ、その時1度きりしか会わなかったが彼が日本に自分のブランドを売り込みたいので誰か代理店になってくれる人を探していると言っていたのを覚えている。しかしその時の彼はもっと若い印象だった。心の中であの頃より「大分老けたな」と思いながら、「あっそうだ。クラマスじゃなくてサーフボードの工場で会ったよ。」と返事をした。

それから日に何度か顔を合わせ挨拶を交わすようになった。昨日のペリスコープのThe dayにも波を見に来ていたが足が痛いから入ら無いといい帰ってしまった。

私の知っている限りではサーフボードシェーパーでサーフィンが凄く上手、という人は少ない。彼も大きな波に入りたく無い理由付で足が痛いと言い訳したのだろう。やはりシェーパーはボード作りやらせたら上手だけれど、サーフィンは駄目なんだなと思い、何故か彼のサーフィンスタイルを勝手にグーフィースタンスだと頭の中で決めつけていた。

そして先日よりサイズダウンした今日の朝もペリスコープにパドルアウトすると波は昨日より小さいが余裕で頭半はある。沖のピークにはローカルサーファーとレイキーに住む外国人、ここの常連達が陣取っていた。そしてそのメンバーの中にはジェイソンの姿もあった。

セットの数は少な目だが掘れて質の良い波を常連達優先で波を回していて、その時一番沖に陣取っていたジェイソンの場所にちょうど特大セットが入ってきた。

長いことサーフィンをやっているとパドルを見ただけでどんなサーファーかが分かる。ジェイソンがその大きな波に乗ろうとパドルを始めたとき、すぐに上手なサーファーだと言うことが分かった。

昨日まではどうせシェープだけ上手くてヘボサーファーだろと決め込んでたのだが彼のパドルを見ただけで一気に覆された。

そして波を捕まえテイクオフをしたらグーフィーだと思っていたスタンスはペリスコープではフロントサイドとなるレギュラースタンスだった。

陸上とは全然違うオーラが出ている彼のパドル姿、サーフィンをする姿をしばらく見ていたら急に昔々の記憶が蘇ってきた。

もう25年ぐらい前になるのだろうか?私はジェイソンと会っている。まだオーストラリアから旅行来てビンギンにホームステイをしながらサーフィンをしていた頃、よく一緒にビンギンでサーフィンをしていた。今日のペリスコープでみた彼のサーフィンも上手だが、当時はスポンサーも付くトップサーファーで一際輝くサーフィンをしていた。そして海の中でも強かった。ブラジリアンの団体などが入ってきて海の中の秩序を見出したときなど叱っていたのを覚えている。そして強いだけではなく優しいサーファーでもあった。

当時リーフブレイクなれてない私に「お前もう少しだ。あと1年やれば上手に乗れるようになる。リーフでのサーフィンはとにかく海全体の動きを感じ取れ。」と教えてくれたのを今でも鮮明に覚えている。

先程海の中では、もしかしたら彼とは25年前にビンギンであったかも知れない?という曖昧な予測が海から上がり彼のサーフィンしている時の目付き、声などを思い出すと、25年前とは全く変わった様相だがジェイソンだと言うことは間違えないと確信している。

また顔をあわせたとき25年前に会ったジェイソンだと言うことを明確にする質問を用意している。「昔凄く小柄なフランス人ガールフレンドがいたよね?」と聞いてみようと。