必要なのは気持ちじゃない。現金だ。

スンバワハッピーハウスのメンバー一員、浜さんの5日間視察ツアーも終わり先日の昼前ジャカルタに向けて出発。毎日一緒になって遊んでいたホリデー気分も一掃で、今日から頭の中はまた現場モードへ。

先日までのホリデーモード中はスンバワに来て以来、初のサーフィン2ラウンドに朝イチからのサーフィン、そしてビーチでサンセットを見ながらビールを飲み朝から晩まで海三昧。

スンバワハッピーハウスのプロジェクトを進める事ばかり考えていたので、浜さんの登場で忘れかけていた本来の目的、「気持ち良くサーフィンをする為に、皆を代表してここスンバワに家を建てているんだ。」と初心を思い出させてくれた。

スンバワはバリ島と同じく南半球、日本とは季節が真逆で今は夏は終わり、これからどんどん秋が深まっていく。つい数週間前までは一面深い緑色だった大地は少しづつ茶褐色が目立つようになり南方向から乾いた風が吹くようになってきた。こちらでも日本と同様、情熱的な夏が終わり秋という季節は寂しさ、哀愁を感じる季節。先日はこのレイキー地区で最南端、その先には人っ子一人住んでいないナンガドロと言う、周辺でも一際貧しく原子の生活に近い部落へ訪れた。

そんなところからスンバワハッピーハウスへ働きに来ている職人は数週間前にバイク事故を起こして長らく仕事を休んでいる。バイク事故を起こした原因は、身ごもった奥さんの調子が悪く診療所に行ってみると子宮外妊娠で危険な状況に置かれている。そんな奥さんの事と現実的な薬や病院の支払い、お金の問題を考えていたら気が遠くなってしまい縁石に乗り上げ転倒してしまったらしい。体中傷だらけで口元と頭には縫い目があり、顔にも傷を覆っている。事故を起こしてから半月経つので傷は7割り型回復しているが、包帯やガーゼなどせずに生傷むき出しのままで私に奥さんと自身の病状を説明してくれた。

2人とも命に別状は無いがまだまだ土方仕事に復帰できる状態ではない。その日暮らしの生活をしている彼ら、その他ナンガドロ部落の人々、病院に通うのもお金も無いので怪我や病気が治るまでじっと家で耐えているのも当たり前。そんな彼らにナンとか力になりたいと思い、私は彼らに度々お金を貸したり街に行き薬を買ったりしている。しかしこの地域では彼らだけが究極の貧乏というわけではなく周りも同じような生活レベルの人ばかり、数年前にやっと電気がと開通したこの部落だが未だ水道は無い。だから村人達は毎朝川へ水を汲みに行き、洗濯やお風呂も川で済ませる。扉がついている家の数は半分ほどでレンガの壁にトタン屋根がついただけで床にはタイルもフローリングもない土間、そんなところに竹で作ったベッドが置いてあり、勿論マットレスなどはなく竹の上に直で寝る。薄暗い家の中には暗い照明があり水道が無いので流し台、冷蔵庫ももちろん無く、キャンプの様な生活をしている。

そんな彼らが今一番必要なのは現金だということは承知だが、ここでは皆そんな生活が当たり前で既に最小限だがヘルプはしているのと、他にもこの地域から働きに来ている人もいるので、特別扱いはしない方が良いと判断しこの様に話してみた。

「今2人とも不調な状態で本当にお金が必要だよね。まだ体調良好とは言えないけれど働けるでしょう?いつもやっているような体力を使うキツイ仕事ではなく、ごみ拾いなど軽作業やりな。きつくなったら休み休みやれば良いから。」と何度か同じ内容を繰り返し伝えてみた。

しかし返事は「後1週間休みたい。」と私の期待通りにはならなかった。そんな話の途中に彼は部屋の中に一度引っ込むと、汚れた小さなビニール袋を持ち出してきた。そしてビニールを開け中の物を取り出し手渡しに渡された。いつもと同じように消極的な声で「これは山の中で拾ったんだ。」と説明された。ツルツルの質感で6cmほどの薄っぺらい楕円形の石はオパールの様な色をしていたので、夕暮れ間近に西に落ちた太陽に透かせて見るとガラスの様な物体が川の流れか海の波に洗われて宝石のような形になった事がわかった。

私はつい口が悪いスベリ「これガラスじゃない?」と否定意見を発してしまった。

実は彼がこの宝石を出してきたときに直感で、この宝石を私に買ってほしいということは分かっていた。既に私に借金がある彼は、これ以上「お金を貸してほしい。」と言えない事も知っている。だから私に宝石を差し出し、現金を手に入れたかったのだろう。でも私が「これガラスじゃない?」と言ってしまったのでそれから話は進展しなかった。

舗装も何もされていない荒野の中の掘っ立て小屋の前の大木の上に座り、夕方の太陽に黄金色に染まる800mほどだが周辺で一番の高さプーマ山の深い森を見ながらスンバワの貧困部落での話だが、なぜか彼らも貧乏な部落の人にも悲壮感は見え無かった。

20~30分程話して私は席を立ち、「次回訪れるときは薬を持ってくるからね。」と笑顔でバイクのエンジンをかけると、彼らは、「あーあっ、現金手に入らなかった。」と伺えるような、うつむき加減につまらなそうな顔が、ミラー越しに目に入ってきた。