棟梁の人間性が段々と分かってきた。

設計図を見ながら棟梁が、「外国で作成された設計図は壁の外寸で表記するんだけれど、この設計図は壁の中心と中心の距離で表記されている。」

その事は設計図を毎日のように眺めているので、勿論分かっていたが、外国とインドネシアの設計図の表記が違うことは知らなかった。

朝イチからバリバリの仕事モードで日本人のように細かいところまで考えている棟梁を和ませようと、親指と人差し指を少しだけ開いて。「まあ5cmぐらい内寸が変わったとしても大丈夫だから。」と伝えてみると、「いやいや5cmじゃないその上に片方2cmのモルタルをぬる、そして両側に壁があるので4cm、それに5cm足すと9センチの差が出るじゃないか。」と真剣な表情で言葉がかえってきた。

はっきり言うと私自身は、何時も「ここはインドネシアだし」という前提で物事をすすめる。過去の経験上、内寸数センチの誤差が出ても当たり前の範囲で考えているので、もし誤差が出たとしても怒ったりはしない。というか、はじめからそこまで完璧な仕事は要求するつもりもない。

オーストラリアで建築の仕事をしていたという棟梁に、私もオーストラリア働いたことがあるのでオージーの仕事に対する態度などは知っているよ。「棟梁はオーストラリアで働いていた時、周りの人より仕事ができる部類だったでしょ?」と聞いてみると、なぜか質問した内容と違う答えが帰ってきた。

仕事は少しでも曖昧にしてしまうと、はじめは少しだけが。次はもう少しだけ。になり、その後はドンドンいい加減になる一方だ。だからはじめから一寸の狂いも無くピシッとやるのがプロの仕事なんだ。

家の基礎に貼ってある紐を指差しながら、一番はじめの部分、たかが1cmだけずれているだけ。でもその1cmのずれは、10m先では何センチのズレになる?

そう1cmじゃないだろ。10m先ではたかが1cmだったズレが大きくずれるだろう。と、非常に分かりやすい説明をしてくれた。

うーん。質問した答えと違うんだけれど、棟梁の言う事は100%コレクトでその通りだ。本来なら私がこの棟梁の様な考えを持ち、インドネシア人の棟梁に、この様な事を伝えなければ行けない立場にあるのだが、棟梁は私の役までこなしてくれている。

通常バリでは現場に私が現れると、「あっボスが来た。」と職人たちが急に働くスピードが早くなったりするのだが、ここでは私がそういうプレッシャーをかける必要も無い。

会社や組織も同じことが言えるが2人ボスがいると、下の物がどちらについて行ってよいか方向を見失うので、この現場では棟梁を総括の頭として、私は口を出さない監査人のような立場で行くのが最善方法だと思う。少し残念だがこの先も工事現場では影が薄い存在を演じて行こうと思う。

先日ブログで工事展開が予想外な方向に進んだ事を掲載したが、私の立場的存在も全然予想していない展開となってしまった。

棟梁をはじめ工事のメンバーとは、まだ付き合いが浅く、お互いにどんな人間か確認しあっている段階だ。そんな中、今日は心が近づけた出来事があった。それは、現場で使い古しの水のボトルの下の部分を15cmぐらいの高さに切ったインスタントコップに、コーヒーを継いでくれたとき、私は底に溜まったコーヒーをそのへんに落ちている木の棒で混ぜようとすると、横にいた棟梁とメンバーが私に気を使ってくれ、「そんなの使うな。」とすぐさま綺麗な棒を用意してくれた。そんな彼らの行為は嬉しいものだが、「キャンプもなれているし私の趣味は登山なので、少々汚かろうが大丈夫だよ。」と伝えると、ほんの一瞬間が空いたあとに、棟梁が「タンボラで登山ができるぞ。」(タンボラはスンバワで一番高い山でレイキーから3~4時間かかる。)と返事が帰ってきた。

私はタンボラには、まだ登ったことないが登山口には行ったことがあるので少々だが知識はある。タンボラについての知識を話す前に「実はサーフィンより登山のほうが好きなんだ。」と付け加えて話してみると、棟梁もタンボラに登った話やレイキーのすぐそばにある850m程の低い山だが登れる山がある事も教えてくれた。

山に登る人間は、サーフィンだけしている人間より、きちっとした人が多く、実直で無駄なことをゴタゴタ言わずに努力するタイプの人間が多い。どちらかというと山の人間性を多く占める私には、ほんの短い間の山会話だったが、一気に心が近づいた様に感じた。

そして、この話のあとに「スンバワの人々はバリのように笑顔で挨拶したり、笑うことも少ないけれど、心は笑顔だから。」と私に伝えてきた。

私はバリに長年いたわけで、そうなったわけではないが、若い頃からニコッと笑顔で会釈をする事を心がけている。棟梁はそんな私の一瞬の仕草も見てて私にそう伝えたに違い無い

。私も棟梁同様、人の行動、仕草、言動など、気が付かないうちに勝手に見てしまうのだが、どうやら棟梁も同類の人間だと言うことが分かった。こういう人間は山に登っても強いのだろうなと思いながら、ますます一緒に登山に行きたくなってしまった。

もう数カ月もすると雨季が来てしまうが、ロンボク島のリンジャニ山に一緒に登る機会は作れないだろうか?と考えている。